―それぞれ、小説にプロレスネタが入ってくるのは、どういう気持ちからなんでしょう。爪:無理やり入れるんですよ。絶対入れる必要のないときにかぎってどうしても書きたくなっちゃう。たとえば「ソバージュヘア」と描写すればいいところを、「冬木(弘道)に似た髪型の……」って書いてしまう(※9)。冬木じゃ伝わらないと思いますって言われてもかまわず書く(笑)。
※9:国際プロレスでデビュー、全日本~SWS~WAR~インディー団体で活躍した「理不尽大王」。2003年に逝去。
アセロラ:伝わらなくていいと思って書いてますもんね。
爪:
どうしても冬木じゃないと嫌なんです。プロレスに詳しくない人には申し訳ないんですけど、冬木でクスっと笑ってもらえる数少ない同志に向けて書きましたね。
アセロラ:間接的にそこを伝えているところをわかってほしいですよね。私も、言いたいけど周りに伝わる人もいなくて(笑)。でも文章の中に入れて発信すれば誰かしら拾ってくれるだろうと。私の小説『嬢と私』の中で、主人公がうまい棒を食べたときに、「一番うまいのはサラミ味なんだよ!」ってセリフが文中に出てくるんですけど、それは先ほどの中邑選手の発言から来てますし。
爪:うまい棒とその名言を結びつけるのは素晴らしいマッシュアップです!
アセロラ:私はプロレスを言葉の文化でもあると思って見ていて。長州さんの名言とかって本当にすごいんです。今でこそ面白そうなおじさんみたいに扱われてますけど、意図的にこういう言葉を使っているんだろうってことは多いですよね。
爪:おっしゃる通り、頭がいいのを隠してると思いますね。いまの面白い長
州さんは、自分で別のフェーズに入られたのかなって。
アセロラ:そこは前田さんと違うところで、前田さんは本能的にやってる感じがするんですよ。長州さんはより一層、ちゃんと考えてやってる感じ。そこが現役時代のお2人の道を別れさせた気がします。あと週プロとかゴングとか、ご自分の中で文章を書くときに何か影響を受けていると思いますか?
爪:週プロには影響を受けてると思います。週プロの記事って、パラパラって流し見をしても、表紙のキャッチコピーとか見出し文だけは絶対覚えているようなことが多かったですね。
アセロラ:私は週プロじゃなくてゴング派でした。
爪:そこにも派閥がありましたよね!
アセロラ:週プロもゴングも両方買っていたんですけど、週プロって、下手したら試合の経過とかを書いてないときもあったんですよ、当時。ゴングは割と試合経過を克明に書く。だから自分は今、仕事でライブレポートを書くときも、できるだけ時系列に沿って曲を書いていって、見てなかった人が追体験できる書き方をしているんです。それはゴングの影響が大きいかもしれないですね。週プロって概念的で。私の中では、「週プロとロッキンオン」、「ゴングとクロスビート」で派閥を分けて考えていました。
爪:わかります。俺、雑誌とか新聞紙なんかの紙の匂いが好きなんですけど、ゴングとクロスビートは紙質が硬いんですよ、ロッキンオンと週プロはちょっとやわらかい紙を使ってるんです。その違いには絶対何かあるんじゃないかと思ってます。
アセロラ:あははは。紙質の違いは今考えるとたしかにそうかも。週プロは今も買ってますか?
爪:一時期みたいに定期購読はできていませんが、今も買ってますね。