moonridersの多面体と多様性、鈴木慶一の自薦曲で1984年から1996年を辿る



鈴木:英語のタイトルが続きましたね。しかも鈴木博文作詞、白井良明作曲。これまた家庭崩壊というかね。

田家:このタイトルすごいですよね(笑)。誰が最初に死ぬんだ? っていうタイトルですからね。

鈴木:そういうタイトルなんだけど、娘がどうした? 息子がどうした? ということです。

田家:お前たちを残して先に逝けないと言ってる。

鈴木:『DON’T TRUST OVER THIRTY』の長編映画化な感じですよね。家庭が崩壊していくのをこの頃の鈴木博文さんはテーマにしていたんじゃないですか。そういったことが実際にあったかどうか、私は何も言いませんし、人のことは言えませんが(笑)。

田家:で、活動再開のアルバムを『最後の晩餐』というふうに。

鈴木:これもアイロニカルですよね。記憶に残っているのはミックスをミラノでやったんです。今、ヘッドホンで聴いていると、重低音がすごい。これはハウスの影響ですね。拍打ちのドラム、ドンドンドンって、この低音を出すためにミラノでとんでもないことをした。ロバート・パーマーが使ってるスタジオでしたね。で、何をしたかと言うと、ベースとドラムズを抜き出して1回アナログテープに録音するわけです。それを24回くらいコピーしてまた戻す。そうするとなんかぶよぶよになってくる。ぶよぶよをイコライズして、ちょっとは聴こえるようにする。

田家:24回というのは結果的にそういう回数になった?

鈴木:24トラックのアナログのレコーダーが何台かあったので。何回かでどんどんいい感じになっていくなというのがありますね。『AMATEUR ACADEMY』でも「BLDG」っていう曲がありますけど、最後に全員で演奏するところがあるんです。そこまでは全部サンプラーです。全員で演奏するところで何回重ねようか。2回、同じ演奏3回目、4回目、8回目ぐらいで変化が見えたんです。お! ここまで変化しないのかと。もうちょっと重ねてみようかと、10何回目でまた変化が。よし、このくらいでやめておこうというのがあって。それは劣化ではなくて、ハイファイにさせていくことでしたが、このアルバムは劣化させていくということです。

田家:はー……! ってもう口が開いてしまいました(笑)。

鈴木:アシスタントエンジニアのフィリッポという人がいて、口開いてましたよ。なんでお前らこんなことするんだって、いやおもしろいだろ? って、俺には分からないと(笑)。

田家:イタリアの話が出たのであえてお聞きしてしまうのですが、慶一さんが『鈴木白書』を1991年にお出しになって、イギリスと台湾録音があって、高砂族を起用しているのは何を求めているんだろうと思いました。

鈴木:ある本を読んだならば、世界で最初に和声を繰り広げたのは高砂族ではないかという説がある。ブルガリアンボイスが最初だという話もある。グレゴリオ聖歌はユニゾンですからね。いろいろ説があるんですけども、たしかにその音源を聴いたら和声があったんです。レコードを借りて、当時は中村とうようさんから借りました。

田家:たしかに高砂族の音源を持っている人なんていませんもんね。

鈴木:うん、そうです。「鈴木くん、君もこういう音楽に興味を示すのはおもしろいことだね」って言われましたけどね(笑)。

田家:このお話をどこか他でお聞きしたいなと思ったりしております(笑)。

鈴木:台湾でまず録音するんですよ。それを持ってロンドンに行って、今こういうものを作っているんだと、先に提示して、それによって相手はどう出るかなと。で、プロデューサーに1曲ずつ任せてロンドンバージョンは作っていくわけです。

田家:5年間でそういう試みもメンバーそれぞれがしていたということですね。このあたりをまたお聞きしようと思います。13曲目です、1992年のアルバム『A.O.R.』から「ダイナマイトとクールガイ」。

Rolling Stone Japan 編集部

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