moonridersの多面体と多様性、鈴木慶一の自薦曲で1984年から1996年を辿る

帰還 ~ただいま~ / moonriders

鈴木:これ2日間テープが回らなかったんです。打ち込みに次ぐ打ち込みで、生の楽器を使ってないのでこのストリングスは全部シンセサイザーなので、そのアレンジに年月ではないですが2日も費やしたということですね。棚谷祐一くんの助けも借りて。

田家:慶一さんの詞で岡田さんが曲。恥ずかしながらこのアルバム、初めて聴いたんですよ。すごいアルバムですねー。

鈴木:この年は暗い事件が多かったんです。

田家:いいアルバムだなあと思いました。

鈴木:夜をテーマにしようと、1番大きいのはオウム事件ですよね。そして、武川がハイジャックに遭うと。

田家:はい、6月。

鈴木:自らハイジャックに遭う。

田家:阪神淡路大震災もありました。

鈴木:夜というテーマはどうだろうと私は提示した記憶があります。この夜のような1年からなんか上手く抜け出せないものか? というようなことですけどね。で、これは武川が本当にハイジャックに遭ったとき、私は至近距離にいたんです。自分のソロプロジェクトのために山形の親戚のおばさんたちを集めて、御詠歌を録りに行った。そこに向かう電車の中、電話がかかってきてマネージャーが泣き出したんです。「何が起きたんだ?」って聞くと、電車の中に電光ニュースみたいなのがありますよね。山形上空でハイジャック。

田家:あ、山形上空だったんだ!

鈴木:はい。それで名簿を見たらば、武川が乗っているということが分かった。そして、どこか分からないところに着陸したらしい。後で武川が言ってましたけど、着陸が1番怖かったって。どこに着陸するかが全く分からないんでね。函館に着陸し、その後どんちゃん騒ぎだったらしいですけど無事でよかったですよ。

田家:この「帰還 ~ただいま~」の中の〈無力の力〉これはすごいなと思ったんです。

鈴木:これはいい思いつきだなと、自分でも自画自賛しますよね。無力にも力があるんじゃないかと、無力であることが1つの力に。言ってみれば、スター・ウォーズで言うところのフォース。あれは理力と訳していましたね、いい訳ですね。理力でなんとかなるのではないかなと、無力であってもね。

田家:それぞれの歌が夜を歌ってると言われましたけど、いろいろな夜がありますもんね。

鈴木:そうですね。明日のために遊ぶ夜もあるし、しかし明日が来ないかもしれない夜もあるし。

田家:「まぼろしの街角」はThree Guraduates というクレジットでした。

鈴木:同じ大学の3人なんですよ。このときに印象に残っているのは「思い出は持たない」と。そうかなあと思って、非常に思い出に満ちたまぼろしの街角、所謂池袋周辺の大学の街角の話をどんどん盛り込んで、岡田くんに歌ってもらうようなことを考えたんですね。

田家:「渋谷狩猟日記」っていうのは〈来ギャル孫ギャルひ孫ギャル 町の湿地の両棲類〉老人狩りの逆(笑)。

鈴木:ははははは! 渋谷が荒れてきましたから。ずっと渋谷に事務所が80年代から90年代まであって、やけに叫び声が多くなってきたなとか。

田家:なるほど、そういう夜のアルバムなんだ。最後、「Damn! MOONRIDERS」は〈くたばれムーンライダーズ〉って歌っていて、詞が慶一さんで曲が岡田さんで、とても明るい曲で。

鈴木:明るいんだけど、〈くたばれムーンライダーズ〉って言えってことですよ、言ってくれ! と。非常に自虐的。自虐的と言えば、ジョージ・ハリスンですけれども、そういう自虐性を私は捨てきれないので。

田家:今日最後の曲、15曲目1996年のアルバム『Bizarre Music For You』から「みんなはライヴァル」。

Rolling Stone Japan 編集部

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