チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

「思いもよらない方法で誰かの人生を変えてしまう」

YouTubeチャンネル「MrBeast」の主人公はドナルドソン本人だ。登録者数が1億人を超えているこのチャンネルでは、高額な費用をかけて制作された動画とカラフルなサムネイルが目を引く。一つひとつのサムネイルの制作にも1万ドルが注がれており、「賞金100万ドルをかけたエクストリームな隠れんぼ」や「世界一危険な脱出ゲーム」のように、YouTubeのアルゴリズムを理解した最適なタイトルが付けられている。こうした動画の多くは、感覚としてはビデオゲームに近い。実際、脱出ゲームは10室を舞台に行われており、それぞれの部屋はキューブリック監督のホテルを想起させるものから本物のヤギがいる田園エリア、さらにはスパイク付きの動く壁が挑戦者に迫ってくるインディ・ジョーンズ風の部屋のように、テーマごとに制作されている。イタリアの高級車ランボルギーニ3台を使ったレース動画では、お題が書かれた封筒を求めて挑戦者たちが街中を疾走した。





こうした動画の多くは、クリックを誘うためにあえて過激なタイトルをつけているとも見られかねない。「世界一大きなスライスピザを食べる」という動画では、重さ4キロ、全長180センチほどのスライスピザの完食に挑んだ。その一方、「24時間ぶっ通しで水中にいる」という動画では、裏庭のプールの中に酸素いっぱいの大きなクリアケースを設置し、そこに頭を入れてチャレンジに挑んだ。タイムは12時間強で、結果的には失敗に終わった。このほかにも、1950年代のテレビ番組『Queen for a Day』のように善行を目的としたものもある。こうした動画では、ホームレスの人に家をプレゼントしたり、無作為に選ばれた動画配信プラットフォームユーザーに10万ドルを寄付したりしている。2020年末には、「MrBeast Philanthropy」という新チャンネルを開設。収益は、ノースカロライナ州東部で移動式のフードバンクを運営している卸売業者に全額寄付された。このフードバンクは、2021年末までに100万563食を提供したそうだ。





さらにドナルドソンは、くじ引きや競争といった参加型の動画を通じて、視聴者が大金を手に入れるチャンスを提供している。カナダ出身のアレックス・マローニーさん(20)は、MrBeastのアプリケーションボタンから2日以上指を離さないというチャレンジに成功して賞金10万ドルを獲得した。その間、マローニーさんはフードデリバリーとエナジードリンクで生活していたそうだ。マローニーさんは無職で、大学に進学しようかどうか迷っていた。10万ドルを手に入れたことで、安心感を得ることができたと話す。「信じられませんでした。賞金を獲得したおかげで、生活が安定したと思えるようになったんです」。そう言うと、「(ドナルドソンは)思いもよらない方法で誰かの人生を変えてしまう」と語った。

ドナルドソンの動画には、20代前半の白人青年たちが頻繁に登場する。彼らの多くは、ドナルドソンのように人生に行き詰まり、各々がYouTubeに活躍の場を見出した若者たちだ。華奢でイケメンのクリス・タイソンは、初期の動画にも出演している古株。大きな目がキュートなチャンドラー・ハロウは、ドナルドソンの幼馴染で野球仲間だ。クセ毛が特徴的なカール・ジェイコブスは、アップステート・ニューヨーク出身の元編集者。編集の仕事を辞めてドナルドソンの一味に加入したジェイコブスは、いまでは固定メンバーのような存在だ。

彼らを引き連れて、ドナルドソンは一大マルチメディア帝国を築き上げた。メインチャンネルの昨年の年収は5400万ドル(約77億円)とも言われている。YouTube活動のほかにもMrBeast Burgerというデリバリー専門のレストランを全米でフランチャイズ展開していて、その店舗数は1600にのぼる。1月には、Feastablesというチョコレートバーブランドをローンチ。『チャーリーとチョコレート工場』のウィリー・ウォンカを想起させる「MrBeastのチョコレート工場チャレンジ」といったキャンペーンを展開している。こうした事業に加えて、毎月のグッズ収入は約50万ドル(約7000万円)と推測される。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE