米マンション崩落事故、母を失った「奇跡の生存者」と父の再出発【長文ルポ】

Photo by Ysa Pérez for Rolling Stone

2021年6月、米南部フロリダ州マイアミ近郊サーフサイドの高級マンションの一部が崩落。死者98人を出したこの事故から1年が経過した。がれきの下から救出されたジョナ・ハンドラーさん(16歳)がトラウマとの闘いをローリングストーン誌に語った。

【救出時の写真を見る】重さ4トン以上のコンクリートの下敷きになったジョナさん

メールの着信音やSNSの通知音が静かに響くなか、ジョナ・ハンドラーさんはベッドの上でうとうとと眠りかけていた。ごく普通のティーンエイジャーの日常だ。スマホの時計は午前1時15分を示す。平日にしては夜更かしだ。するとその瞬間、何かが裂けるような大きな音が響いた。悪魔がバッティング練習でもしているのかと思うほどの轟音だ。その音を聞いて、ジョナさんの母親も飛び起きた。

ジョナさんと母親は、シャンプレイン・タワーズ・サウス1002号室のリビングルームから狭いバルコニーに出た。バルコニーは、北に向かって突き出ている。ふたりは上を見た。マンションの屋根から何かが落下したのか? あるいは、マンションの管理組合がようやく重い腰を上げて上層階の修繕工事をはじめたのだろうか? それとも、何か重いものがプールに落ちたのか? 2021年6月24日の早朝に起きた出来事の目撃者がまず目にしたのは、普段とあまり変わらない風景だった。散歩する犬、風に揺られて近くのホテルの壁をかすめるヤシの木。ジョナさんが首を伸ばすと、潮が引いて低くなったサーフサイド・ビーチの水面がキラキラと輝いていた。

ジョナさんと母ステイシー・ドーン・ファンさんは寝室に戻った。「大丈夫よ」と言って、ステイシーさんは息子のベッドの端に腰をおろした。ジョナさんは、くまのプーさんのぬいぐるみをぎゅっと抱いて脚を組む。ジョナさんが2歳の時に両親は離婚した。プーさんは、その時からの相棒だ。数分間、ふたりはただベッドに座っていた。ぼんやりとした、穏やかとも言える時間を過ごしながら。スプリンクラーは作動しない。警報器も鳴らない。

午前1時22分。建物が揺れた。そして寝室のドアに掛けられたミニサイズのバスケットボールフープの方向に部屋が傾いた。するとその時、雷が落ちたような音がした。

ジョナさんは、いまでもあの瞬間を鮮明に覚えている。いつでも思い出すことができるが、そんなことはぜったいに嫌だと言う。ジョナさんは立ち上がったが、次の瞬間には床に倒れていた。何かがガラガラと崩れる大きな音がし、ジョナさんは立ち上る噴煙に包まれた。そしてドンという音がした。重さ4.3キロほどのコンクリートのかたまりが倒れて、ジョナさんに覆いかぶさるような形で止まった。頭とコンクリートの間は、15センチあるかないかだ。ジョナさんは、野球のキャッチャーのような体勢でコンクリートの下敷きになってしまったのだ。コンクリートにあたった衝撃で背中が腫れあがるのを感じたが、どうにか耐えられた。左腕も自由に動く。右腕は、母親の片腕に絡まりながら、自分の身体に押しつぶされていた。腕が絡み合ったままの状態で、コンクリートに挟まれてしまったのだ。

Translated by Shoko Natori

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