チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

シングルマザーの母

ドナルドソンは、スティーブ・ジョブスやイーロン・マスクといった実業家に憧れている。取り立てて特徴のない事務所と自宅のリビングルームの壁には、彼がヒーローと崇める人物たちの写真が並ぶ(その中には、アマゾンで購入したナポレオン1世に扮するマスクの写真もある)。「彼の行為や人との接し方を何から何まで支持しているわけではない」と、ドナルドソンはマスクについて話す。テスラとスペースXの創業者であるマスクがこの取材の1週間前にヒトラーに関するミームをTwitterに投稿し、削除したことが念頭にあるのだろう。「それでも、石油依存からの脱却を図ったり、宇宙探検云々で人々のイマジネーションにふたたび火を点けたりしているところには、感銘を受けるんだ」


母親のスーさんと1歳頃のドナルドソン。子供の頃はかなりの負けず嫌いだったとスーさんは話す。「わざと負けてゲームを放棄するなんてもってのほか。最後までプレイしないと解放してくれないんです」COURTESY OF MRBEAST

ドナルドソンは、11歳より前の記憶はどれも曖昧なものばかりだと言い張る一方で、それが実業家としての重要な資質であると前向きに解釈する。「僕は、徹底して先進的な考え方の持ち主なんだ」と話す。「過去なんてクソくらえ。過去は過去。だから僕は、未来を支配しようとしている」。確かに、ドナルドソンはノスタルジーとは無縁のようだ。それでも、ドナルドソンの母親は巨大な倉庫に息子の昔の動画の思い出の品々をすべて保管している。当の本人は、倉庫に足を踏み入れたことはないのだが。

過去を懐かしむ感覚が欠けていることは、自己防衛という点でも役に立つ。ドナルドソンの幼少期は、安定とは程遠いものだったのだ。ドナルドソンは、米国のほぼ真ん中に位置するカンザス州で3人兄弟の中間子として生まれた。両親は軍人で、母親のスーさんは、同州のレブンワース砦で働く前はドイツのマンハイムで刑務所長を務めていた。「息子は、私が刑務所長だったことをすごくかっこいいと思っているようです」とスーさんは話す。ふんわりとした赤毛と穏やかな口調が特徴的な女性だ。現在は、息子の会社の最高コンプライアンス責任者(CCO)として会社の支出や契約を統括するかたわら、息子の銀行取引といった個人的なことを管理している(息子の住む場所を選んだのも彼女だ)。

軍にいた頃、スーさんは1日12時間働いていた。そのため、子育てのほとんどはベビーシッターの留学生に任せっきりだった。息子の内向的な性格の主な原因は、引っ越しが多かったせいではないかと分析する。「ジミーが7歳になるまで、南部の3カ所を転々としました」とスーさんは言う。「いとこ、おば、おじといった親戚もいません。息子と夫と私だけでした」。結婚生活はいばらの道で、2007年にスーさんは離婚。当時、ドナルドソンは8歳だった。それ以来、ドナルドソンは父とまったく連絡を取っていない。理由は語りたくないと言う。「できる限りのことをして、とにかく前に進み続ける努力をしました」とスーさんは離婚について話す。「ジミーと私は、精一杯がんばることでこの困難を乗り越えたのです」

その後、ドナルドソンはグリーンヴィル・クリスチャン・アカデミーという小規模な私立校に転入した。そこは、長髪の男子生徒に罰点をつけ、罰として聖書の節を丸写しさせるような学校だった。ドナルドソンは、校則をしっかり守ったと言う。「毎日、聖書の言葉を頭に叩き込まれた」と話す。それでも、同性愛などに対する教会の見解には長年疑問を抱いてきた。現在は不可知論者を自称する。「この地域の人たちにとって(同性愛などは)かなりセンシティブな話題だ」と語る。「僕は神の存在を信じているけど、世の中にはいろんな宗教がありすぎるし、熱狂的な信者もたくさんいる。どの宗教が正しいかを見極めるのは困難だ」

ドナルドソンは、友達の多い子供ではなかった。週末にほかの子たちと一緒に出かけることも稀だった。スーさんは、幼い頃から息子の負けん気の強さに気づいていた。「わざと負けてゲームを放棄するなんてもってのほか。最後までプレイしないと解放してくれないんです」と話す。「『モノポリー』をしていると、ジミーが『最高額物件をわざと僕に譲って負けようとしないで』とあまりにしつこいので、しばらくプレイしてからもう嫌になってしまったくらいです」

Translated by Akiko Kato

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