チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

型破りな博愛行為

関係者は、ドナルドソンのことを「こだわりの強い人」だと口を揃えて言う。その他すべてを犠牲にして、ひとつのことに執着するきらいがあるのだ。ドナルドソン曰く、YouTubeに打ち込みすぎたせいでクラスメートから自閉症なのでは? と疑われたことがあるそうだ。「5年間、体に悪いんじゃないかってくらい徹底してバイラル化やYouTubeのアルゴリズムを研究していた時期があった」と言う。「朝起きて、フードデリバリーで食事を済ませる。それからパソコンの前に座って、(ほかのYouTuberたちと)一緒に延々とくだらないことを研究するんだ」(『カタンの開拓者たち』というボードゲームにハマった時は、いつも新品でプレイしたいと言うドナルドソンの希望を叶えるため、アシスタントはこのボードゲームを毎月最低5点は購入していた。ドナルドソンは、このボードゲームの特徴である戦略や陰謀、ポーカーフェイスといった要素が大好きで、「嘘をつくのは大得意だ」と豪語する)。

ドナルドソンは、仕事に打ち込みすぎる性格のせいで人間関係を維持するのが苦手だと明かした。「友人関係を維持するのがあまり得意じゃない」と話す。「僕の友達は、全部仕事の関係者なんだ」。家族で一緒に過ごす時間も多くはない。近所で暮らすYouTuberの兄とも疎遠だ。ドナルドソンは、兄は自分に似ていると言いつつも、「自分よりは成功していない」と言う(ドナルドソンの兄は「MrBro」というチャンネルで活動しているのだが、あまり効果はないらしい。ドナルドソン曰く、兄は「MrBro」と命名したことをいまは後悔している)。

野球少年だったドナルドソンは、その後クローン病を患っていると医師から診断された。クローン病とは、小腸や大腸などの消化管に炎症が起こる自己免疫性の病気だ。そのため、高校2年生以降はスポーツを諦めざるを得なかった(現在は腹痛や下痢といった症状を和らげる「レミケード」という医薬品の服用に加えて、お抱えのシェフが用意した食事を取っている。それでも、辛い症状に悩まされることは多々あるそうだ)。クローン病を患っていることのストレスのせいで、ドナルドソンはより多くの時間を家の中で過ごすようになったのではないかとスーさんは話す。こうしてドナルドソンは、自然とYouTubeに惹かれていった。

実際、ドナルドソンは11歳からはやくもYouTuberとして頭角を現していた。『マインクラフト』や『コール オブ デューティ』などのビデオゲーム実況動画をYouTubeに投稿していたのだ。13歳で「MrBeast6000」というチャンネルを開設(「MrBeast」というチャンネル名は既に使用されていた)。当時のドナルドソンは、自分らしさを模索していたように見える。YouTubeのさまざまなトレンドに便乗しては、何が自分にいちばんハマるかを検証した。人気YouTuberのPewDiePieのようなビデオゲーム実況動画に挑戦し、その後YouTuberたちがどれだけ稼いでいるかを見積もる動画を制作した。

それから徐々に登録者が増えはじめ、どうにかして収益を生み出せるようになった。考えられる理由のひとつは、過激なバラエティ系動画を次々と投稿したことだ。ある動画でドナルドソンは、タイソンの手でトイレットペーパーと食品用ラップにぐるぐる巻きにされる。別の動画では、座ってひたすら10万まで数えている。この動画は、TVアニメ『NARUTO -ナルト-』を一気見する様子を収益化できないか?という思いつきからヒントを得たそうだ。2015年に投稿した動画では、未来の自分に向けて「最低10万人は登録者がいるといいね」とメッセージを送った。2017年5月、チャンネルの登録者数は100万に達した。

スーさんは、息子が動画制作に勤しんでいることをまったく知らなかった。だから、イヤーブック(訳注:1年間の学校生活をまとめたアルバム)を眺めていた時にYouTube動画に関する息子の書き込みを見た時は、心底驚いた。「私は、ごく普通の母親です」と彼女は話す。「息子がしていることがとても不安でした」。YouTubeで稼いでいることを息子から明かされると、その不安は少し和らいだ。それでも、進学して大学を卒業することにこだわった。落とし所として、ドナルドソンはコミュニティ・カレッジに入った。ところが、授業には一度も顔を出さず、1学期の途中でドロップアウトした。

するとスーさんは息子を家から追い出し、タイソンとメゾネットで同棲することを勧めた。タイミングとしては完璧だった。チャンネルの登録者は75万人に達したばかりで、初のブランド契約を取り付けていた。ドナルドソンは稼ぎを使うのではなく、ホームレスの人に1万ドルの小切手をプレゼントする動画をつくった。

ドナルドソンが動画の中で誰かに現金を配るのは、これが初めてではない。それでも、ドナルドソンはこうした型破りな博愛行為が人々の共感を誘うことに気づいた。それからは、「飲食店の接客係に本物の金の延べ棒でチップを支払う」(5300万回再生)のような“お金贈り”動画を中心につくるようになった。気づく頃には、YouTubeで毎月10万ドルを稼いでいた。「ある日、小切手を持った息子から『見てよママ! 僕はこれだけ稼いだんだ』と言われました」とスーさんは振り返る。「その額は、私の年収と同じだったのです」。その後スーさんは退職し、息子の会社に入社した。


クローン病と診断されたドナルドソン(写真左)は、大好きなスポーツを諦めなければならなかった。けれども、それを機にYouTubeにのめり込んでいく。COURTESY OF MRBEAST

「カネなんてどうでもいい」とドナルドソンは言う。死ぬ前には、全財産を誰かに譲るつもりでいる。「次から次へとピカピカの高級品を追いかけるような人生はまっぴらだ」と、テスラのモデルXを運転しながら話す。「そんな人生は悲しいし、惨めすぎるよ」。ドナルドソンのアシスタントを務めるモデル級イケメンのスティールさん(ユタ州からの移住者)の話によると、アシスタントとして雇われる前、ドナルドソンはリビングルームにアウトドア用の折りたたみ椅子を置き、床にマットレスを広げて暮らしていた。「見た目なんてどうでもいい」とドナルドソンは話す。「大事なのは機能性だ」。それでも、一つひとつのピカピカの所有品の値段に無頓着ではないようだ。たとえば、観音開きタイプのオーダーメイドの冷蔵庫——仕事の邪魔にならないよう、お抱えのシェフが外から食事を運べるように設計されている——の設置には、なんと50万ドルかかったと言う。

Translated by Akiko Kato

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