チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

物議を醸した過去のツイートと動画

ドナルドソンの行動は、過去にも物議を醸した。2018年、アトランティック誌はドナルドソンが10代だった頃に反同性愛発言をツイートし、複数の動画の中でジョークのオチに同性愛を利用したと報じた。それに対し、当時のドナルドソンは謝罪しなかった。その代わり、同誌に「僕の行為は、攻撃性とは一切無縁だ。相手にするつもりもない。実際、世間的にはどうでもいいことだと思っている」とコメントした。現在は、こうした対応を悔いている。

「ここは、事実上バイブル・ベルト(キリスト教篤信地帯)の中心なんだ」と、グリーンヴィルをドライブしながらドナルドソンは言う。「10代の頃は、『世界を滅ぼすために神が降臨するのは、同性愛という罪を罰するため』的なことを毎日聞かされていた」。その結果、当時はこうした反同性愛的な考えが普通だと信じるようになった。「大人になるにつれて『この考えは普通じゃない。僕が育った場所がおかしいんだ』ってことに気づいた。だから、戻れることなら過去に戻って『いい加減にしろ』って自分に言ってやりたいよ」

ドナルドソンの仲間の中には、SNS上の発言を事細かに詮索されたものもいる。そのひとりがタイソンだ。2021年4月、タイソンはTwitterに反同性愛的で同性愛嫌悪的なミームを投稿したとして批判を浴びた。その後タイソンはツイートを削除し、謝罪した。その時の経験は「学び、成長するチャンスを与えてくれた」と語る。そう言いながら、当時のツイートは自身のセクシュアリティに関する悩みに端を発するものだと明かした。2020年秋、タイソンはバイセクシュアルであることをカミングアウトした。

ドナルドソンは、昨年再浮上した2016年の動画にはあまり触れたがらない。動画の中でドナルドソンは、性別で言うなら自分は攻撃用ヘリコプターと戦車だと言ってトランスジェンダーの概念を痛烈に皮肉り、ネット掲示板が元ネタのミームを再生している。現在は削除されているこの動画について、ドナルドソンは次のようにコメントした。「ただ座ってジェンダーのことを考えるだけでカネを稼ぐ人がいるなんて、どうかしてるよ」。問題のミームは、同性愛嫌悪的なものとして当時はかなり広まっていたが、出所は知らないとドナルドソンは言う。「冗談のつもりで、みんなと同じようにミームで遊んでいただけだ」

ドナルドソンは、政治には断固として無関心な姿勢——少なくとも公の場では——を貫くことで多少なりとも世間の批判をかわせるようになった。「共和党支持者や民主党支持者のどちらかを無視するつもりはない」と語る。「いろんな人が僕の慈善活動をサポートできる、という考えが気に入っているから。僕の目標は、何億人もの人たちに食事を提供すること。だから、アメリカ人の半分を無視するのはバカげてる」(先日、ドナルドソンはコメディアンで格闘技コメンテーターのジョー・ローガンがホストを務めるポッドキャスト番組に出演。同番組は、コロナ否定論やワクチンに関する誤った情報を発信したことで批判されたが、ドナルドソンが出演したエピソードでは、こうした話題は取り上げられなかった)。

2021年、ドナルドソンの会社は史上最大とも言うべきピンチに直面した。ニューヨーク・タイムズ紙が、ドナルドソンが有害な職場環境を醸成し、従業員に怒鳴り散らし、残業を強要し、罵り言葉を浴びせかけたという複数の元従業員の発言を記事にしたのだ。ドナルドソンを非難した人々の中には、動画編集に携わっていた元従業員のネイト・アンダーソンさんとマット・ターナーさんもいた。さらにふたりは、職場での経験を語った動画を投稿したことでMrBeastファンから嫌がらせを受けた結果、動画を削除した。

ドナルドソンは、ニューヨーク・タイムズ紙の報道を否定した。「僕はいままで千人以上と仕事をしてきた。その中のふたりが僕のことを要求度の高い奴だと思っただけだ。それはそれでまったく構わない」と言う。「この会社は、従業員に対して求めるもののレベルが高い。だからと言って、有害な環境ではない」。ドナルドソンの話によると、彼はターナーさんに1万ドルを贈り、契約終了後はゲーム会社に推薦状まで書いた(ターナーさんは、給料として受け取った実際の金額はそれより少ないと主張する)。

Translated by Akiko Kato

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