チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

アメリカンドリームを体現する23歳

寝室でビデオゲームのコメント動画を制作していたドナルドソンは、10年もたたないうちに60人のフルタイム社員(フリーランスを除く)を抱える実業家へと成長した。2000万ドル(約28億円)の寄付金を集めて2000万本の植樹を目指す#TeamTreesや海から約1万3600トン分のゴミを集める#TeamSeasといったさまざまな慈善活動にも取り組んでいる。言っておくが、ドナルドソンはまだ23歳だ。「5年前は、(授業中に)トイレに行きたい時は、先生の許可が必要だった」と話す。「でも、こうした活動はほんの一部なんだ。20年後に僕らがどれほどの成果をあげられるか、楽しみにしていてほしい」

MrBeast YouTube LLCは、ドナルドソンの故郷ノースカロライナ州グリーンヴィルに3つの巨大なコンテンツおよびプロダクション拠点を建設しようとしている。グリーンヴィルは、郊外に散らばったショッピングモールやオフィスパーク、イースト・キャロライナ大学のキャンパスを除いては、取り立てて見どころのない小さな町だ。ドナルドソンは、そんなグリーンヴィルをデジタルメディア業界で活躍するコンテンツクリエイターが集まる場所にしたいと期待を膨らませている。「(ドナルドソンを)誰かに例えるなら、アトランタにスタジオを構えた映画プロデューサーのタイラー・ペリーがいちばん近いかもしれません」と話すのは、同社の代表取締役を務めるマーク・ハストヴェットさん。彼自身もグリーンヴィルとロサンゼルスを行き来している。「ジミー(・ドナルドソン)は、ここに自分のスタジオをつくろうとしているんです」

ともすれば、ドナルドソンは年間数千万ドルを稼ぐメディア帝国のフロントマンらしからぬ人物かもしれない。内向的であることを自ら認めている彼は、気軽な会話が苦手だと頻繁に漏らす。私が初めて会った時は、約5600メートルの広さを誇るスタジオのドライブウェイをのんびり歩いてきたかと思うと、自己紹介もせずに「さて、いまから話せばいいかな?」と藪から棒に尋ねられた。

ドナルドソンのことをよく知る人物でさえ、彼がカメラの前に立つ人生を選んだことに驚きを隠さない。「誰かに(有名になる)前のジミーのことを尋ねると、『あのジミーが有名人? マジか』って言われると思う」と、ドナルドソンの長年の親友であるクリス・タイソンは言った。「ジミーは、いつも物静かな奴だった。誰かと話したくないとか、そういうわけじゃない。ジミーは、自分が好きなこと——主にゲームやYouTubeなんだけど——について話すのが好きなんだ。それ以外の話題については話したがらない」

本当のことを言えば、「MrBeast」チャンネルの主人公はMrBeast本人ではない。現金こそがの真の主役なのだ。ドナルドソンのほぼすべての動画では、現金にスポットライトが当てられている。それと同時に、世界中の問題を解決してくれる万能薬として、単発の仕事を請け負うギグワーカーや働き者のシングルマザーといった出演者に差し出されているのだ。ある動画では、グラス2杯の水を持ってきたホットドッグ店の店員に1万ドルのチップが支払われた。別の動画では、パンデミックで仕事を失った人々がプレゼントとして10万ドル以上の現金を受け取った。MrBeastが人々を魅了するのは、米作家ホレイショ・アルジャーの成長物語に通じるものがあるからかもしれない。少しでも運が良ければ、通りで出くわしたMrBeastから大金をプレゼントされることも夢ではないのだ。

当然ながら、こうした行為は脳腫瘍に絆創膏を貼るようなものだ。世間から注目されるかもしれないが、根強い格差や貧困の連鎖の解決策にはならない。ドナルドソンとカール・ジェイコブス、タレク・サラーマ(もともとはコメディアン志望だが、いまはカメラマン兼キャストとしてドナルドソンと仕事をしている)と一緒にメキシコ料理店でランチをしながら、私は次のように動画の感想を述べた。彼らの動画を見ていると、高額の小切手や拳いっぱいの現金は、あらゆる“病”を治すことができるように思えてくると。

「ある意味、そのとおりかもしれない」とサラーマは言った。

ドナルドソンもうなずく。「1兆ドルを持っていれば、悩みなんてないようなものだ」

Translated by Akiko Kato

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