チャンネル登録者数1億人、世界一稼ぐYouTuber「MrBeast」の正体

金銭は、ひとつの目標を達成するための手段

世界一稼ぐYouTuberとして知られるドナルドソンには、安全面の懸念もつきまとう。3〜4年前、撮影中に強盗に押し入られたことがあるのだ。それを機にセキュリティゲートに囲まれたコミュニティに引っ越した。窓には防弾ガラスを張り、三重扉をスチールでさらに補強した。市内で人前に出る時は、必ずボディガードが同行する。こうした懸念は、まったく根拠がないわけではない。私たちがメキシコ料理店でランチをしていると、店の外の駐車場でふたりのティーンエイジャーがずっと待ち伏せをしていた。私たちが店を出ると、ドナルドソンを尾行しはじめた。

ドナルドソンは、こうした問題が身から出た錆だということをわかっている。「僕は、好きな世界を創ることも好きなコンテンツをつくることもできる。これが僕の選んだ道なんだ」と言う。「結局のところ、僕は影響力を持っている。望みさえすれば、死ぬほどカネを稼ぐことだってできる。やれやれ。でも、世間は僕に期待してくれている。だから、僕は死なない」

金銭は、ひとつの目標を達成するための手段。これがドナルドソンの基本的な考えのようだ。その目標とは、YouTubeを支配すること。金の延べ棒やランボルギーニ、札束の山といったものは「どうでもいい」と語る。「でも、ほかの人たちにとってはそうじゃない。再生回数が伸びるのもそれが理由だ。だからこそ、僕らはどんどん稼いで大きなことに取り組めるんだ」

チャンネルの登録者数が伸びるにつれて、動画の制作費も膨れ上がった。現在、ほとんどの動画の1本ごとの制作費は約100万ドルにのぼる。利益はゼロに近い。メインチャンネルの主な収入源は、タイソンらが登場するゲーム実況やリアクション動画だ。こうした動画は、制作費のわりに利益をあげることができるので効率が良い。「つくろうと思えば、もっと制作費のかからない動画をつくることもできるけど」とドナルドソンは話す。「でも、それは嫌なんだ。もっとデカいことがしたい。限界に挑みたいんだ」

2021年末、YouTubeを乗っ取ることに長けたドナルドソンの能力が世界中のメディアに注目された。ドナルドソンは、約400万ドル(5億7000万円)投じてNetflixの人気ドラマ『イカゲーム』を再現したのだ。動画の内容は、45万6000ドル(約6500万円)の賞金をかけた激しい椅子取りゲーム。原作と違って過激な暴力はない。動画は大成功を収め、2億2500万もの再生回数を記録した。



その一方で、この動画は多くの人のひんしゅくを買った。原作が浮き彫りにした、賞金目当てのゲームによって中産階級が支払う残酷な対価を見過ごしていると批判されたのだ。それでもドナルドソンはこうした批判をはねつけて、「ドラマの監督は、『こうした再現動画は好きだ』と言った」と指摘する(『イカゲーム』のファン・ドンヒョク監督は、YouTuberたちがドラマを再現することには賛成しているが、MrBeastの動画に限定してコメントしていたわけではない)。

Translated by Akiko Kato

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