成功からの転落 米ロックバンドを崩壊させた「自称投資家」「洗脳」「暴力」【長文ルポ】

1995年撮影。写真左から時計回り:チャド・グレイシー(Dr)、チャド・テイラー(Gt)、パトリック・ダールハイマー(Ba)、エド・コワルチック(Vo)(Photo by Bob Berg/Getty Images)

米国ペンシルベニア州ヨークで結成されたバンド「LIVE」は、数多くのヒット曲とともにオルタナティブ・ロックの黄金期を支えた。だが近年においては、法廷での係争やメンバー間の軋轢という問題が原因でメンバー同士が対立している。

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2020年3月4日、LIVEのギタリストのチャド・テイラーは、カリブ海に浮かぶ島国、ドミニカ共和国にあるハードロック・ホテルのビーチに立っていた。キューバ産の葉巻に火をつけ、広大な海を見つめる。何年にも及んだメンバー間の対立と泥沼の係争を経て、LIVE(主な代表曲は1990年代にヒットした「Lightning Crashes」と「I Alone」)はようやく再結成を果たし、バンドとしての道をふたたび歩もうとしていた。イギリス出身のロックバンド、ブッシュとダブル・ヘッドライナーを務めたツアーを終えたばかりで、ニューアルバムの制作の話も持ち上がっていた。そしていま、プライベートライブを行うためにこうしてカリブの楽園に来ている。

「これ以上幸せな人生は想像できない」。テイラーは、ドミニカ共和国のビーチで幸福を噛みしめたときのことを振り返った。「ここまで来るのに必死でがんばった。だから、いまを楽しもう。今夜、俺たちはステージに立ち、15分ほど演奏する。そして法外なギャラを懐に収める。まじで最高かよ」

いま思えば、あれがテイラーにとって最後の幸せな時間だった。その数カ月後、彼の人生を形づくっていたすべてのものが無惨に崩れ落ちた。最初の打撃は、新型コロナのパンデミックだった。世界的な感染拡大にともない、3月ごろから音楽ライブ・コンサート業界が休業状態に追い込まれた。これによってテイラーは、ライブという唯一の手堅い収入源を失ってしまったのだ。その後も人間関係のトラブルや(テイラーが言うところの)裏切りなどが相次ぎ、結果としてバンドは解散状態に陥った。だが、いったい何が原因でこのようなことになってしまったのだろう? それを明確に説明できる人はいない。というのも、一人ひとりが自分なりの見解を持っているのだ。

それでも、はっきりしていることはいくつかある。2019年の終わりごろにビル・ハインズという男——その後10年にわたってテイラーとともに数々のベンチャービジネスを興した人物——が逮捕され、強盗罪および従業員の若い女性へのストーカー行為と暴行罪で告訴された。さらに2022年6月には、LIVEのフロントマンのエド・コワルチックがソーシャルメディアを介してテイラーをバンドから解雇した(テイラーは解雇の理由を公にしていないが、ハインズがバンドにもたらした混乱が関係していることが予想される)。「昨夜付けで、私がバンドの権利の55%を所有することになった」と、コワルチックは冷ややかなコメントを投稿した。「チャド・テイラーはクビだ。彼によって私たちの音楽が止まることは二度とないだろう」。テイラーだけでなく、コワルチックはドラマーのチャド・グレイシーとベーシストのパトリック・ダールハイマーも解雇した——その方法は、テイラーほど露骨なものではなかったが。テイラーはいまもダールハイマーと親交があるが、それ以外のメンバーとは弁護士を通してしか話さない(コワルチックはこの記事に対するコメントを拒否した)。

音楽シーンを見渡してみても、人間関係のもつれや金銭がらみのトラブル、法廷での係争などによってバンドが崩壊するのは、なにも今回が初めてのことではない。ビートルズやポリス、さらにはフージーズに至るまで、数多くの人気グループがいままでにこうした問題に直面し、その多くがそれを乗り越え、メンバー間の壊れた絆を修復してきた。だが、LIVEのメンバーが和解する可能性は限りなくゼロに近い。かつては大親友だったメンバーたちは、過去数年間に起きた基本的なことに限らず、ありとあらゆることで対立しているのだ。メンバーたちに話し合いを求めることは、共和党のマージョリー・テイラー・グリーンと民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスの両下院議員に2021年1月6日に起きた連邦議会議事堂襲撃事件の原因について仲良く話し合ってもらうくらい現実味に欠ける(実際、元メンバーのひとりはトランプ支持者で、もうひとりは「筋金入りのリベラリスト」を自称している)。

Translated by Shoko Natori

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