成功からの転落 米ロックバンドを崩壊させた「自称投資家」「洗脳」「暴力」【長文ルポ】

ギタリスト、テイラーの証言

まずはテイラーの話からはじめよう。テイラーは、バンドをダメにしたのはハインズだと主張する。テイラー曰く、ハインズは天才的な詐欺師であると同時に彼とメンバーたちから1000万ドルを超える金額を盗み、自分を事実上の破産へと追い込んだ張本人なのだ。

「俺はカモにされたんだ」とテイラーは言う。「俺のことを頼りにしている人たちがいるのに、俺たちを傷つける男を信頼してしまった。俺は夫としても、父親としても失格だった。メンバーの家族にも迷惑をかけた。俺は、そんな自分をいまだに許すことができない」

ドラマーのグレイシーにも話を訊くと、「チャド・テイラーがすべての原因だ」という答えがラスベガスから返ってきた。グレイシーは、AVNアダルト・エンターテインメント・アワードに出席するため、ラスベガスを訪れていた。「チャドは、頭のイカれた病的ナルシシストだ。ビル・ハインズという怪物のせいで人生があんなことになったのも自分のせいだ。あいつとは金輪際かかわりたくない」

では、ハインズのほうはどうだろう? ハインズもグレイシーの意見に賛成している。「チャド・テイラーはイカれた酔っ払いだ」とハインズは言った。「私は、チャドに出会ったことを心底後悔している」

2022年9月にハインズと検察官の間で司法取引が成立して以来——重罪に位置付けられる不法侵入、詐欺による窃盗、ふたつの偽造罪に加え、軽罪に位置付けられるストーカー行為と暴行にハインズは異議を申し立てなかった——ハインズは自宅軟禁されている。軟禁場所は、ペンシルベニア州ヨークにあるLIVEの元事務所の一室だ。ビデオ通話アプリを使って筆者である私がインタビューを行うと、弁護士の隣でハインズが口を開いた。「チャドは自分勝手な男だ」。ハインズはさらに付け加える。「あいつは自分のことにしか関心がない(中略)対する私は、世界でもっとも親切で優しい男と言えるだろう」

さまざまな問題を抱えながらも、LIVEは活動を続けてきた。その背後には、元メンバーたちが巻き込まれているトラブルからバンドを切り離し、3人のミュージシャンとともにバンドに新しい命を吹き込もうとするボーカリスト、コワルチックの努力がある。新生LIVEは2022年10月に始動したが、現時点で公演の多くはミシガン州のマウント・プレザントやペンシルベニア州のベンサレムのような地方のカジノや会場に限定されている。

コワルチックと新生LIVEのメンバーたちがフロリダ州タンパにあるテーマパーク、ブッシュガーデン・タンパベイでの公演と夏にオランダで行われるふたつの音楽フェスに向けて準備を進める一方、テイラーは自ら経営するギターショップ、トーン・テイラーズの2階に座っている。ペンシルベニア州リティッツにある店の壁一面には、1本4000ドルのフェンダー社のエレキギターが並ぶ。部屋の隅には、機材用のケースが1台。色褪せたLIVEのシールが貼られている。壁に掛けられた「No Stairway to Heaven」の青い標識がコメディ映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)の名シーンを彷彿とさせる。ギターショップの従業員たちが店開きの準備を進めるなか、イーグルスやフリートウッド・マックの曲が店内に響く。

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE