成功からの転落 米ロックバンドを崩壊させた「自称投資家」「洗脳」「暴力」【長文ルポ】

オリジナル・メンバーでの再結成

UFDの件で州警察と連邦捜査局(FBI)の合同チームに協力していると話すテイラーは、当時の不正行為のことはまったく知らなかったと宣言する。「俺のことを疑う人には、頭の切れる受託者たちでさえだまされたってことを言っておきたい」とテイラーは言う。「外部の会計士や監査役、内部の最高財務責任者や法律顧問、公認会計士らがだまされたんだ。全員が操作されていた。俺はギタリストだから、馬鹿だと言われても仕方がない」(FBIはこの捜査の実態を裏づけもしなければ、否定もしなかった)。

過去を振り返りながら、テイラーはハインズのおかしな点にもっと注意を払っておくべきだったと後悔をにじませる——暴行でハインズを訴えた例の女性とハインズの関係に気づくべきだったと。テイラーは、女性が働いていた当時から彼女のことを知っていた。「ふたりの関係に気づけなかったことにいまも強く後悔している」とテイラーは言う。「俺はバンドのツアーで忙しかったし、毎日事務所にいたわけじゃない」。後日、テイラーはフィジーでの暴行の証拠として見せられた写真に衝撃を覚えた。「被害者の女性の写真を見た。顔はあざだらけで、鎖骨まで血だらけだった。いまでもあの写真が頭から離れない。首を絞められたときの親指の跡まで写っていたんだ。俺は、そんなことをする人間を許すことができない」

だが天才的な詐欺師の例に漏れず、ハインズは自由自在に好人物を演じることができた。「誰かに好かれたいときのビルは、ものすごく陽気で社交的で寛大だった」とテイラーは話す。「ビルのなかには、信頼できると思わせるような何かがあるんだ。いまでもビルと一緒に楽しい時間を過ごしている夢を見る。そんな夢を見るたびに最悪の気分になるんだ」

テイラーと私は、昼食をとりにブルズヘッド・パブリック・ハウスというブリティッシュパブを訪れた。店内に足を踏み入れると、2歩も進まないうちにバーカウンターでテイラーの旧友に出くわした。ふたりはハグを交わすと、友人がバーテンダーにテイラーのランチ代をおごらせてくれと言った。言っておくが、バイソンバーガーが買えないほどテイラーは貧乏ではない。それでも、友人のこうした優しさが身に染みるようだ。ほとんどのロックスターが最初のロイヤリティを受け取るや否や、ロサンゼルスやニューヨークに移り住むのに対し、テイラーが人生の大部分をペンシルベニア州ランカスターで過ごしてきた理由はここにある。

「ロサンゼルスで子育てをしたくなかった」とテイラーは言う。「俺が大人になったのと同じような環境、俺がよく知っている環境で子どもを育てたかった。俺は頭の先から足の先までブルーカラーだから。この町の連中は、みんな俺の仲間だ」


2019年にステージで共演を果たすテイラーとコワルチック。ANDY MARTIN JR./ZUMA WIRE/ALAMY

テーブル席につくと、テイラーはバラバラになったLIVEの欠片をつなぎ合わせて2016年にコワルチックとともに再結成ツアーを行うまでの経緯を語ってくれた。再結成ツアーは、稼ぎとしては悪くなかった。LIVEのメンバーは昔からギャラを4等分していた。だが、コワルチックを引き込むために今回は彼の配分を40%まで引き上げなければならなかった。対するテイラーは、自分の配分を勝手に30%に引き上げた。ダールハイマーとグレイシーは、残りの15%を分け合った。「これに関しては、どう答えていいかわからない」。なぜダールハイマーとグレイシーの倍のギャラをもっていったのかと訊ねると、テイラーからこんな答えが返ってきた。「俺はただ、バンドへの貢献度を反映させたつもりだった」

グレイシーはそう思っていない。「チャドは、パトリックと俺の断りもなく、一方的にエドに交渉した」とグレイシーは不平を漏らす。「パトリックと俺には、ふたりのおこぼれしか残っていなかった。そのせいで、初日からムカついた。せっかくの再結成を台無しにされたんだ」

グレイシーは、時折突拍子もないことを言ってかつての大親友を糾弾する。「俺の妻——いまは元妻だけど——とチャドの間に不適切な関係があった」とグレイシーは主張する。「チャドは否定しているけど、俺は別の方法でいくつか証拠をつかんでいるんだ」。ビル・ハインズも、グレイシーの元妻からテイラーとの関係について聞かされていると言う。「最低なクズ野郎だ」とグレイシーは吐き捨てる。「それが友達にすることかよ」(テイラーは、グレイシーの元妻との肉体関係を一切否定した。グレイシーの元妻も「私はチャド・テイラーと寝たこともないし、ビル・ハイズにそんなことを言った覚えはない」とメールで否定した)

これだけではない。2013年にメリーランド州ボルチモアで開催されたインディーカーのグランプリ・オブ・ボルチモアでグレイシーとハインズは、テイラーがダールハイマーの妻のジャクリーンさんの顔面を殴ったと主張しているのだ。「チャドがパトリックの嫁をノックアウトした」とハインズは言う。「あいつは暴力的な人間だから」

「そんなのは真っ赤な嘘だ」とテイラーは反論する。「くだらなすぎる」

この件については、ジャクリーンさんもテイラーを擁護している。「ビル・ハイズは嘘をついています。この人は危険人物で、人を操ることに長けています。私は、誰かにバーでノックアウトされた経験はありません。昔、それも10年近く前にチャド・テイラーと口論したときに腕を軽くパンチされただけです。その場にハインズはいませんでした。私と主人はチャドの行為を深刻に受け止め、責任をとってもらいました。あのとき解決したプライベートなもめ事がこうして歪められ、取り沙汰されているだけです」

(パトリック・ダールハイマーはこの記事に関する取材を拒否したが、メールで以下の声明を送ってきた。「私たちは、仕事と私生活においてビル・ハインズとかかわったことを後悔しています。私たち家族はいま、ハインズを人生から取り除き、前に進もうと必死に努力しています」)

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE