成功からの転落 米ロックバンドを崩壊させた「自称投資家」「洗脳」「暴力」【長文ルポ】

コワルチックの離脱

ギャラの配分やベンチャービジネスをめぐる騒動にもかかわらず、再結成されたLIVEは2017年からパンデミックがはじまった2020年初旬までライブ活動を続けることができた。だが、2021年の終わりにようやく音楽ライブ・コンサート業界に復活の兆しが見えるようになると、コワルチックは他の3人と距離を置きはじめた。コワルチックは、ネット上でファンに向けて意味深なコメントを投稿するようになった。そこには、LIVEはあくまで「名ばかりのもの」に過ぎず、「LIVEの『再結成』をどのように解釈するかはみんなの勝手だ(中略)でも私は、誰の『バンド』にも所属していない」という言葉が並んでいた。

「俺はソーシャルメディアが大嫌いだ」とテイラーは言う。「でもある日、パトリックがメールで『エドがネットで変なことを言ってる』と知らせてきた」

2022年6月、あるファンがInstagramに投稿した質問に対し、コワルチックはより踏み込んだ回答をした。「3人のオリジナルメンバーはお互い口も聞かない——私は板挟みになっている」と答え、「仮に私がソロ活動をしようとしても、また訴えられる可能性が高い——だから私は、人前でパフォーマンスをしないことでこの争いから自分と家族をできるかぎり守ろうとしている」と述べた。

コワルチックはなぜ急に態度を変えたのか?とテイラーに質問すると、最初はテイラーもまったく検討がつかないと答えた。だが、考えてみれば、思い当たる節がないわけではないようだ。「俺が思うに、チャド・グレイシーとビル・ハインズから何らかの影響を受けたんじゃないか」とテイラーは言う。「バンド名をめぐる訴訟という古いかさぶたをいじりはじめのかもしれない」

グレイシーにも彼なりの考えがあるようだ。「エドと話した」とグレイシーは言う。「『君たちが対立するなら、ステージには上がらないでほしい。私は、この問題とは一切かかわりたくない』とエドに言われた。エドの名誉のために言っておくが、彼は俺たちのこととは無関係だ。エドはただ、LIVEのメンバーとしてパフォーマンスがしたいだけで、そうさせてやるべきなんだ」

テイラーは、コワルチックをバンドから解雇するための法的手段は持ち合わせていないと言う。同時に、コワルチックに共演を強いることもできない。そこで彼らは、サポートミュージシャンを起用して活動を再開するという落とし所を見つけた。活動の収益の一部は、コワルチックの元バンドメンバーにも入る。「エドにはマネジメントがついていて、俺たちの弁護士が連絡をとった」とテイラーは言う。「その時点で俺は気づいたんだ。『少なくともいまは、こいつらは俺の仲間じゃない。だから、上手くいく方法を見つけないといけない。そこで俺たちは解決策を見つけ、取引を成立させた』

テイラーと私はブリティッシュパブを後にして、ランカスターのダウンタウンへと向かった。LIVEのメンバーが駆け出し時代に住んでいたこのエリアには、至る所に思い出が詰まっている。テイラーが、1990年にLIVEがピクシーズのオープニングアクトを務めたクラブの跡地と、その数年後に『Throwing Copper』をつくっていたときに住んでいたビルを指差す。「ランカスターの連中は、みんな俺の知り合いだと思ってた」とため息をつく。「でも、いまではすっかり都会になってしまった」

私たちは車を駐め、ルドゥー・ヴィンテージという小洒落た古着屋に入る。ビリー・ジョエルのストーム・フロント・ツアーのTシャツが75ドルで売られている。1990年代初旬、ここはLIVEのリハーサル室だった。テイラーが部屋の隅を指差し、「ここでエドが『Lightning Crashes』を書いた」と言う。「俺は、あの場所で「Dam at Otter Creek」を書いた。すべてはここで起きたんだ」

だが、それもはるか昔のこと——ヨークの労働者階級出身の4人の子どもたちが同じ夢を追いかけ、ずっと親友だと信じていたころの話だ。ランカスターの上空で太陽が沈もうとするなか、あまりにも多くのことがまだ解決していないことに気づかされる。FBIが捜査しているはずのUFDの不正の件でハインズはまだ告訴されていない。それでも、テイラーと弁護士たちはハインズが告訴されることを期待している。テイラーは、ハインズの自宅軟禁が解除される前に告訴されることを願う。昔のパートナーが自由の身になったら、また何をされるかわからない。そう思うと恐ろしくてたまらないのだ。

Translated by Shoko Natori

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