成功からの転落 米ロックバンドを崩壊させた「自称投資家」「洗脳」「暴力」【長文ルポ】

「俺はあいつらのことが大好きだ」

2022年6月以来、テイラーはコワルチックと連絡をとっていない。テイラーがコワルチックに対して新たな訴訟を起こすことを計画している、という主張に反論するためにコワルチックと弁護士にメールを送ったのが最後のやり取りだった。

「俺は、ここであえてはっきり言っておきたい。というのも、どうやら何かが誤解あるいは誤った方向に解釈されているようだから」とテイラーは綴った。「パトリックも俺も、訴訟のことでエドを脅した記憶はない。神に誓ってもいい(中略)いったい誰がこんなことを言っているんだ? 動機は? LIVEが解散して得をするやつなんているのか? 俺はただ、メンバーと一緒にステージで演奏したいだけなんだ。それ以外のことは何も望んでいない」

その後もテイラーは、UFDの財政をめぐる懸念を延々とメールに綴った。「チャド・グレイシーはどうやらいまもビル・ハインズと仕事をしているようだ。それによって自分自身が犯罪に巻き込まれる可能性があると警告してやったのに」。メールはさらに続く。「エド、それよりも重大なことがある。誰かが君の過去の感情を利用している。でもそれは俺でもないし、パトリックでもない」

コワルチックからの返信を見て、テイラーは凍りついた。そこには「ビル・ハインズは、無罪が証明されるまでは有罪だ。(中略)今後、私への連絡は弁護士を介して行ってほしい」と書かれてあった。

テイラー曰く、ハインズと新しいベンチャービジネス——詳細は明かさなかった——を企てているグレイシーは、極右政治とQアノン的な陰謀論の底なし沼にはまってしまったようだ。この点についてグレイシーは、すべてを否定しなかった。「2020年の大統領選ではトランプに投票した」とグレイシーは言う。「当然、コロナやワクチンについても俺なりの陰謀論は持っている。Qアノン関連の記事を読んだりするけど、真に受けたことはない。俺は、いろんなことに興味があるんだ。どうしてチャドは、こんなことを持ち出すんだろう」

現時点でハインズは、約束手形を介して負っていると自ら主張する約50万ドルの支払いをめぐってテイラーを訴えている(テイラーは「約束手形」であることを否定)。これはテイラーが現在直面している3つの訴訟のひとつで、それらはすべてハインズに「仕組まれた」ものだとテイラーは言う。「弁護士費用も目玉が飛び出るくらい高い」とテイラーは言う。「俺に最大限の打撃を与えようとしているんだ」

暴行被害に遭った女性は、彼女の人生を襲ったこの恐ろしい事件のことは忘れて、前に進みたいと考えている。その一方で、同じような恐怖を経験している女性たちは、自分の経験から何かを学べるのではないかと期待を寄せる。「私が願うのは、私と同じ状況にある方がこれを読み、希望はまだある、決して諦めてはいけない、と気づくことです」と彼女は言う。「この暗くて恐ろしいトンネルの先には、光と自由、そして幸福が待っています。多くの女性が暴力によって命を落とし、そうしたことが世間に知られるころにはすべてが手遅れです。私がこうして生きていられるのも幸運のおかげだとわかっています。でも、もっとはやくに助けを求め、警察に知らせるべきでした。私は、真実を語って仕返しされるのが怖かったのです。虐待者との関係を切ることは困難ですし、虐待者に立ち向かうと考えただけで、恐怖で足がすくみます。それでも、その決断こそ、あなたが人生で下すもっとも重要な決断となるのです」

テイラーは、早いうちに音楽界に復帰したいと思っている。ソロアルバムやダールハイマーと一緒に懐かしい曲や新曲を演奏したり、音楽界で経験したことを語ったりするようなツアーも計画中だ。2020年初旬のドミニカ共和国でのプライベートライブ以来、一度も人前で演奏していない。テイラーは、早くステージに立ちたいのだ。

グレイシーのほうは、今年の後半ごろにコワルチックからバンドに呼び戻されるという期待を抱き続けている。頭の中では、オリジナルメンバー4人の再結成が夢のまた夢であることもわかっている。「チャド・テイラーとは二度と一緒に演奏したくない」とグレイシーは言う。「ナルシシストと上手く付き合う方法は、かかわらないことだ。だから俺は、あいつとはかかわりたくない。あいつの口からは、嘘や洗脳、暴力しか出てこないから」

それでもテイラーは、メンバーがまた一緒になれる日がいつかは来ると信じている。「こんなことを言ったら家族に殺されるけど」とテイラーは言う。「あいつらさえいいと言えば、俺は明日にでも一緒にステージに立つ。俺はあいつらのことが大好きだ——クソみたいな人生を歩んでいるグレイシーでさえ。俺はあいつらのことと、みんなで一緒につくった音楽を愛しているんだ」

from Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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