s-kenと高橋一(思い出野郎Aチーム)が語る、パンクを通過したダンスとレベルミュージック

ーニューアルバム表題曲の「P.O. BOX 496」では、「ビッグブラザー」という単語が出てきます。はからずしも今とシンクロしているような歌詞で。これはどうしてこの言葉を使おうと思われたんでしょう?

s-ken:今はネットでいろいろな情報が伝わってくるでしょ? 情報に囲まれちゃっているから毎日ニュースを追っているだけで頭がこんがらがっちゃう。だからこそ、街角を見ながら宇宙を見ているような視点が必要だと思っていたんです。自由に音楽ができない独裁的な国があることを示す上で、ジョージ・オーウェルの『1984年』というのは象徴的でしょ? 「Big Brother is watching you」は欧米では1つの慣用句になっているんです。独裁的はいつも君を監視しているよって、今の中国、ロシアはみんな時代に逆行してるように感じたんです。

高橋一:最近のウクライナの悲惨な状況も象徴的ですよね。僕が思ったのは、独裁的なことだったり、弾圧だったり、虐殺みたいなことに対して意識的に自分の問題として考えていかないといけないということで。どこの国でもそういったことが起こる可能性はいつだってあるというか。だからこそ、当たり前かもしれないけど、そういうことに反対する要素を、僕もポップミュージックに少しは混ぜ込みたいとも思ったりします。

s-ken:文学だったらそういう表現しても日本ではオッケーなんだよね。ただ、日本のトップソングの中には、そういう表現ってあまりなくて。忌野清志郎がちょっとやってたぐらい。人間の感情として、社会に対してどう思っているかは文学と同レベルで音楽でも表現していいわけでしょ。ディランやレノンやマーリーやボウイ、ミンガスやシモンも半世紀以上前から文学と同レベルで表現してきたよね。

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高橋一:それでいてメッセージだけでなく音楽的にも物凄いということに改めて驚愕しますよね。パレスチナのことだってあるし、シリアがあんな状況になっていたりとか。世界中のそういうことに対して自分もどこか他人事だったし、あまり言ってこなかったんです。加害者にも被害者にもなり得る可能性が誰でもあるから、だからこそダメなんだということは少しでも良いから作品に入れていけたらと考えています。

s-ken:入れてますよね。知ってますよ。“スゲー、自由!”なんて表現、今でもアウトな国いっぱいあるよね。

高橋一:規制が厳しい国でもアンダーグラウンドで、もっとキツイ状況の中で表現している人々もいると思いますし、今自分達のように特に規制もかからず歌いたいことをリリースできる状況がけっして当たり前ではないということでもあるかと思います。直接的に言葉にしていない曲でも、s-kenさんの作品の中にはそういうことにどこか抗っているような、それこそパンクな匂いを僕は感じます。

s-ken:そういう意志がなかったかもしれないけど、オーバーグラウンでしかもトップソングになってボブ・ディランみたいな存在になるというのは、「TOKYO SOY SOURCE」で僕らができなかったことで。彼らが今度それをやってくれると期待していて。音楽的なクオリティが上がっていけば、それは絶対に可能性がある。すでにこれは後世に残るんじゃないかなって曲があるし。

Rolling Stone Japan 編集部

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