松本隆と振り返る、トリビュートアルバム『風街に連れてって!』

田家:今回のアルバムで、改めて松本隆さんを再認識したという方もいらっしゃるでしょうし、今回登場しているアーティストのファンの方には原曲を知らない方もいらっしゃると思うので、そういう方のための特集でもあります。こういう曲だったんだ、松本さんってこんな人だったんだという時間になればと思っています。今週と来週のゲストは、松本隆さんご本人です。よろしくお願いいたします。

松本隆(以下、松本):よろしくお願いします。

田家:今回の収録はアルバム発売直前に行われていますが、今の心境というのは今までのご自身の作品の発表の時と違うものはありますか?

松本:普段カバーってほとんど気にしないんです。いつの間にか作ってていつの間にか発売されるという感覚なんですけど、今回は皆の本気度がすごいので。かなり本人も巻き込まれていますね。

田家:先週と先々週のゲスト、亀田誠治さんが「全亀田を注ぎ込んだ」と仰っていました。

松本:そういう亀田君の松本愛がすごくて(笑)。かなりタジタジですね。

田家:アルバムは今流れている、吉岡聖恵さんの「夏色のおもいで」で始まっているんですが、この始まり方にはどんなことを思われました?

松本:ほとんど僕は口を出していません。マネージャーに「松本さんはトリビュートを捧げられる側の人間なんだから、発言権はありません」って言われて(笑)。彼の中で僕がタイトルと曲順を決めることは評価しているみたいで。それだけやらせてあげるっていう感じで、曲順はちょっといじったんですけど。レコード会社の案は「きみてん(君は天然色)」始まりだったんだけど、ついこないだロンバケ40周年(『A LONG VACATION』/大滝詠一)があったばかりで、ロンバケの一曲目も「君は天然色」だったので、同じになっちゃうなと思って。代わりに、チューリップの「夏色のおもいで」を一曲目に持ってきたんです。それはなぜかというと、「夏色のおもいで」はイントロがついてないんです。オリジナルにはカウントがあったと思うんだけど。なので、今回は人の声で始まったらいいなと思って、そしたらこの曲は聖恵さんの「きーみー」がすごく素直でギミックがなくて良くて。はっぴいえんどが解散してから作詞家としてやっていくか1ヶ月くらい迷った時期があって。それから最初にやった曲が「夏色のおもいで」だったんで。

田家:はい。

松本:この曲の歌詞を作っているときは、自分はいい詞を書く人間としては評価されているんだけど、売れる詞を書く人間としては誰もまだ評価していないわけで。それを得ないといけないから、どうやったらヒット曲というのは自分にも書けるんだろうかって結構悩んだんだよ。一週間くらいね(笑)。

田家:どうやったらヒット曲を書けるのか悩んだ曲です。まずは原曲をお聞きください。原曲はカウントから始まっています、チューリップで「夏色のおもいで」。



田家:この曲の歌詞を一週間くらい悩んだと(笑)。

松本:こういう詞ができたけど、売れるんだろうか? 売れたらいいなと思って。そしたら一作目にしていきなりベスト10に入っちゃって(笑)。もっと大事なのは、この「夏色のおもいで」をどういうわけか筒美京平が「この詞はいい、この人に会いたい」と言ってくれて。それで京平さんの仕事場まで行ったのね。豪華なマンションで、今までとは別世界のお金持ちの作曲家がいてさ。カルチャーショックだったよね(笑)。

田家:まさに50年の始まりの曲がアルバムの1曲目になっております。お聴きいただいたのは、1973年チューリップのシングル、2021年7月14日発売のトリビュートアルバム『風街に連れてって!』から、吉岡聖恵さんが歌う「夏色のおもいで」でした。

Rolling Stone Japan 編集部

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