麻薬密売にすべてを捧げた「無名の男」、娘が記した波瀾万丈の生涯 米【長文ルポ】

逃亡者と追跡者

クヌーセンは当時のことをぼんやりとしか覚えていないが、元妻のマリー・クヌーセン(のちのコネチカット州議会の一員)は、夫が重要な証人となった出来事のことを覚えている。「ケニーはダンの依頼で大量の大麻を運んでいて、コネチカットの小さな町にハワード500機を着陸させました」とマリー・クヌーセンは話す。「荷下ろしの最中に警官が現れました。警官が飛行機めがけて発砲しはじめると、ケニーと乗務員はそのまま離陸しました。最終的には、ニューミルフォードの古いキャンドルライト空港まで逃げました」

クヌーセンの名前が搭乗者名簿に載っていたことが凶と出た、とホイトは明かした。クヌーセンは、事件から一週間もたたずにDEAと地元の警察に捕まった。捜査官としてこの事件を担当していたホイトは、クヌーセンから詳細を聞いてコネチカット州が父の密輸の中心地となっていることを知る。こうして、かつて「コネチカット・コネクション」と呼ばれた男が新たなターゲットとなったのだ。

それから数年間、ホイトは父を追跡した。だが、ホイトは父の高揚感の源を知らなかった。カネよりも、権力よりも、有名ナイトクラブ「スタジオ54」での時間よりも、父は逃げおおせることに高揚感を感じていた。捜査官を欺き、警官から逃れ、夜の闇(または白昼の光)に身をくらませるスリルを味わっていたのだ。そのことについて父は、「アドレナリンが出るあの感じ、あれがたまらないんだ」と綴っていた。

数十年ぶりに父と再会を果たすと、当時63歳だった父は、警官に呼び止められて数百ポンドの大麻を詰め込んだ黒いキャデラックを路肩に寄せたときのことを話してくれた。

「警官たちは、トランクを開けようともしなかった」と、父はにやりと笑った。警官から逃げるのが大好きだった父は、彼らを笑いものにすることを何よりも楽しんでいた。

長年にわたり、父はいくつもの偽名を使っていた。そのなかには、デイヴィッド・ホイトという名前もあった。父は、警官に呼び止められた夜のことを振り返った。父は、ホイトになりすました偽の身分証を地元の警官に見せ、潜入捜査官になりすました。ダン・マクギネスという大麻の密輸業者を追っていると言うと、警官は笑顔で「ご苦労様です」と言って父を解放したそうだ。

そんな時代は長く続かなかった。1970年代後半には、別の薬物が脚光を浴びはじめていたのだ。

「ダンの手腕がイマイチだったわけではありません」とグリーンバーグは話す。これは、父のやり方がマズかったと、いまになって父を非難する親族の言葉とは矛盾する。「彼は、コカインが得意ではなかったのです。状況が変わりはじめたのは、その頃からです」とグリーンバーグは言った。

Translated by Shoko Natori

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