陪審員を惑わすイケメン極悪人、映画のような脱獄〜逃走の一部始終 米【長文ルポ】

ナオミ・ローダスさんは1年間の拘束の末、誓約書と引き換えに釈放され、フレスノで不動産業に従事した。2022年3月に司法取引が成立し、検察は重罪での起訴を取り下げた。代わりにナオミさんは軽罪で有罪を認め、3年間の形式保護観察処分が科された。ローダスさんはインタビューには応じなかったが、彼女の弁護士は依頼人が「ナイエリの犠牲者」で、「恐怖ゆえに彼に支配されていた」と述べた。

コートニー・シェゲリアンさんは2014年カリフォルニア法曹協会に入会し、3年後の2017年には司法取引で免責が認められた。共同創設者として法律事務所を立ち上げ、主席法廷弁護士を務め、カリフォルニア州最高裁判所でも裁判を担当した。だが、コートニーさんのナイエリ戦記は終わらなかった。2022年6月、カリフォルニア州法曹協会は遅まきながら、「当時の伴侶だったホセイン・ナイエリと犯罪行為に深く関わっていたことに関する開示」を怠ったとして、コートニーさんの弁護士資格を剥奪しようとした。コートニーさんはこれに対し、犯罪で起訴されたことは一度もなく、しかるべき開示は行ってきたと念を押したうえで、実際は「自分がナイエリや共犯者3人に……言語道断な犯罪で有罪判決をもたらした一番の功労者だ」と力説した。11月の和解書には彼女が「州法曹界に虚偽の報告」をしたと記されており、コートニーさんは懲戒処分として「公開叱責」と継続監視と倫理研修を義務付けられたが、弁護士資格は剥奪されずに済んだ。

マイケル・Sさんは現在も大麻事業に携わっている――あれから10年が経過し、カリフォルニア州では合法化されたとはいえ、恐ろしいかなマリファナ事業はいまだに銀行口座を開くことができない。下院は2021年に歴史的な法律を可決し、合法的な大麻事業者を対象とした金融機関に代わる安全地帯を提供した。今のところ上院からは、これに伴う法案は出されていない。

ナイエリの量刑判決で、マイケルさんはかつて犯人が殺すと脅した赤毛の恋人と結婚したことを報告した。だが、いまだに事件を引きずっているという――「いつも背後を気にしながら暮らしています」――また、事件が世に知られるようになった重傷や、拘束され、むちで打たれ、消毒で焼けた傷など、「暴力的な野蛮行為」を今も抱えて生きていると非難した。「彼はあの時の犯行現場を、毎日抱えながら生きています」とブラウン氏。「心が囚われた状態です。誰もあんな仕打ちを受けるべきではない」

ナイエリにも書簡でインタビューを申請したが、返答はなかった。裁判を担当した弁護士からは、インタビューの要請にも、ナイエリの犯罪に関する質問にも一切返答はなかった。

2022年末、ナイエリは脱獄と誘拐、車両窃盗の裁判に備えていた。脱獄の際にドキュメンタリーを録画したにもかかわらず、ナイエリは全ての容疑で無罪を主張した。ジョナサン・テイエウも脱獄の共犯で裁判を控えている。彼の弁護士はテイエウがナイエリの言いなりになっていたと主張し、脱獄については「依頼人は脱獄計画には一切関与していなかった」と付け加えた(殺人罪については暴行罪で有罪を認め、決着済み)。脱獄仲間のバク・ズォンは誘拐罪で有罪判決を受け、現在懲役20年の刑に服している。

ホセイン・ナイエリの身の毛もよだつような犯行を知れば知るほど、善悪の観念が揺らぐ。彼は成功者としてのあらゆる要素を備えていた。ハンサムで、運動神経が抜群で、魅力的。仕事熱心で、計画能力に長け、周囲をまとめて困難を乗り越えるリーダー。だが魅力的な外面の裏は空っぽだった。薄っぺらいエゴゆえに、彼は他人から軽視された、あるいは迫害されたと思い込むと、暗黒面への堕落を正当化した。俺にそんなことをしたらどうなるか思い知らせてやるぞ、と。

ナイエリの暴力欲は、司法制度がとうの昔に手を打っておくべきだった問題を露呈した。むしろ彼の堕落を阻止するどころか、歯止めをかけるのにも手を焼くありさまだった。2012年の犯行が行われるはるか以前、2人の判事が彼に同情の念を向けた。そのうち1人は故殺罪で執行猶予を与えた。もう1人は家庭内暴力を講習処分で済ませた。現在彼は勾留の身ながら、新たな重罪を積み重ねている――ごく最近では麻薬所持が発覚した。現在の弁護士はこの件について、「刑務所内の問題」としている。

砂漠での発行の後に彼が残した破壊の爪痕は――3人が刑務所に送られ、女性2人が何年も虐待を受け、男性1人は一生残る傷を負わされた。ルームメイトのメアリーさんは言わずもがな――刑事司法の改革を訴えるもっとも前衛的な人間ですら、法と秩序を重んじる強硬派に変貌するほどだ。刑務所から出てくれなくすることがわが身を守る唯一の手段だ、という人間も時には存在するようだ。

ナイエリの量刑判決の後、オレンジ郡検事局のトッド・スピッツァー検事はナイエリの「堕落した精神」を非難し、「人間が悪魔に変身し、それでいて人間の姿をとどめていられることを絵に描いたような人物」と称した。

ナイエリが行った破壊行為を目の当たりにした被告弁護人も、自分でも驚きながら同意した。「私は仮釈放なしの終身刑には賛成しかねます」と彼女は言う。「ですが、ナイエリの瞳の奥には何の感情もありません。とにかく恐ろしい人間です。まさに人間の姿をした悪魔です」

from Rolling Stone US

Rolling Stone Japan編集部

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